本の匂い、珈琲の香り(続編)

以前、この「ATAC散歩道」に駄文を書いた丸善が再開されたと聞いて、京都に出た機会に訪問しました。
2005年に一度閉店したのですが、10年以上の時を経て再開された新しい店舗は大型商業ビルの地下にありました。(左写真)
昔と同じように専門書や洋書が広いスペースを埋めています。また高級文具や事務用品の展示・販売があり、地下2階には喫茶と軽食のコーナーもちゃんとありました。
31歳の若さで肺結核により没した梶井基次郎の代表作である「檸檬」(大正14年1月)に、「丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆彈を仕掛けて來た・・・」と書かれていたために、10年前の閉店時には作品の上にレモンを置いて帰る人が多発したと報じられていましたが、新しい店舗にはちゃんと文庫版の「檸檬」の横にレモンのバスケットと記念スタンプが置かれていました(下写真)。 美しくなった丸善は、しかし何かが違うんですね。これは外観ではないノスタルジーと言うべきもので、もう一度行きたいとの気持ちは不思議に湧きません。あれほどあこがれたコーヒーを飲まずに帰ってきました。
ところで、昔読んだ懐かしい本はインターネットの「青空文庫」で無料で読めます。作者別、作品別の索引が充実していて、それらを見ているだけでも楽しいものです。また目が悪くなった現在、文庫本を読むのは厳しいですが、ネットですと大きな画面でとても楽に読めるメリットが有ります。
ありがたいことにほとんどの作品は 旧字旧仮名と新字新仮名の両バージョンがあります。機械作業で、スキャナーで読み取られただけの海外の電子ブックとは違い、ボランティアが手で入力したものです。
実はつい先日までこの無料の青空文庫は最悪のピンチに遭遇していました。それは他でもないTPPです。TPPでは著作権が作者の没後70年に改められる予定でした。米国の新大統領によりTPPが空中分解したおかげで、このまま著作権が70年に伸びなければ、山本周五郎(2018年)、三島由紀夫(2021年)、志賀直哉(2022年)、川端康成(2023年)が無料でネットで読める日が近くなります。
ところで「檸檬」の梶井基次郎は1901年、大阪市西区土佐堀5丁目(現・西区土佐堀3丁目)で誕生したそうです。 (坂井記)