ATAC会員ブログ

ATACでは月に2回研究会を実施しており、会員はジャンルを限定せず、順番に日頃の考えをプレゼンしています。

そのプレゼンから会員投票で興味ある内容(エッセンスのみ)を毎月、掲載しています。


「チャットGPTについて」

投稿者:坂井公一   投稿日:2023年9月18日

米国のOpenAI社がChatGTP-3.5として生成AIを米国で公開したのは202211月、日本語で利用可能になったのは20233月ですのでまだ半年余りです。

フェイク情報、著作権やプライバシーの侵害、情報漏洩リスク、考える力の低下、雇用の喪失などの不安を抱えながらも、その驚異的な性能を生産性の向上に活用しようとする取り組みの方が報道記事に多いように思います。

 

ChatGTPに続き、マイクロソフトのBingやグーグルのBardは米英でのリリースからわずか23か月後に日本語での利用が可能になり、しかもその丁寧な日本語での回答にAIの威力や、曖昧性の強い日本語対応を周到に準備してきたと思えます。ChatGTP-3.520219月までのデータを基に回答するのに対して、BingBardはもっと新しい情報まで利用しており、各々使いがってで独自色を出しています。

この原稿執筆時のニュースとして、GoogleChromeの下で動作する生成AIを用いた新しい検索プラットフォームSearch Labs830日から米国に次いで日本で提供を始め、当面は無料で利用できます。早速登録し使い始めましたが、対話型になっており、人と会話するように質問を繰り返すことにより多くの情報が得られるのに驚きました。

 

これらの生成AIを使っての実感では、知識豊かで物腰の柔らかい優秀な助手が24時間そばにいてくれる感じがします。使うにつれ各社の生成AIの得手、不得手も分かるようになってきました。

生成AIの出現で一番苦慮しているのは教育現場だと言われています。生成AIを世界に先駆けてリリースした米オープンAI社の最新の報告では、学生が提出した課題レポートについて、AIが作成したか、人間が書いたかを判別できないとのことです。(92日、日経記事)

 

生成AIについて、ポジティブな意見としては、

・米スタンフォード大学は生成AIが生産性を14%改善する.

・日本の主要100社では7割の企業が生成AIで労働時間の削減を

   目指す.

などがあります。 

ネガティブな見通しでは、生成AIは世界で3億人の雇用を奪うという予測もあります(以上818日、日経記事)

ところで今は無料で使える生成AI上位版のChatGPT-4は月額20ドル)ですが、莫大な研究開発投資と維持改良経費はどうやって回収されるかの疑問があります。米オープンAI社には米マイクロソフトが100億ドル(1.45兆円)を投資し、すでに市場の株式評価額は投資額の数倍とされていますがアルトマン社長は少なくとも近い将来に株式上場する計画はないと明言しています。

ChatGPTの登場で一番ピンチに陥っているのはグーグルと考えられます。米スタンフォード大学卒業生がすべてのネット情報から求めている情報を検索でリストアップし、それに連動する広告をつけるビジネスモデルを構築してから今年で25年になります。毎月の検索数は1000億回を超え、広告収入はトヨタ自動車の売り上げを超えます。占有率90%を超えるグーグル検索が広告なし、無料の生成AIに主役を奪われると、検索全体の質が低下する恐れもあります。

 生成AIが収益を得るのは、単純には無料サービスと応答速度などで差をつけた有料版に誘導していく、無理やり広告を貼り付ける、あるいは検索を通して得られる情報を整理してそれを欲しい企業に販売するなどが考えられます。この収益回収についてChatGPTに質問を投げると、この生成AI技術を特定の分野向けに特化してライセンス料などを得る方法などが考えられるとの回答が出ました。

 いずれにせよ、生成AIは人類との戦いではなく、それを使いこなす人と、使いこなせいない人との戦いになるかもしれないとも考えられます。

(なお、本記事はAIで書いたものではありません。念のため!)



カーボンニュートラルについて(キーワードの再整理)」

 

投稿者:山口誠    投稿日:2023年8月12日

(1)   はじめに

 202384日、国連のグテーレス事務総長は、「地球温暖化から地球沸騰化へ」と警告を発しました。先進国に対して、2040年までのネットゼロにコミットするように求めました。世界全体がカーボンニュートラルの方向に向かって待ったなしの状態です。一方で、中小企業を支援する場面の中で、「化石燃料って何ですか?」とか「省エネルギーをして石油何kl 減らせると言われるより電気代がなんぼ安くなると言われる方が、よほどわかりやすい」といった質問や意見が普通にあります。 そういった場面に役立つようにカーボンニュートラルにまつわるキーワードを4つに分けて再整理してみました。

 

(2)基礎知識

経産省近畿経済産業局と環境省近畿地方環境事務所の2者が協力して作成した「カーボンニュートラルって何なん?」のパンフレットは、国としての方向性を事業者向けに簡易にまとめたものです。しかしこれを理解するには、次にあげる項目を説明できないといけないと思います。

・炭素と二酸化炭素と熱エネルギーについて

・火力発電所の仕組み

・各産業で排出される温室効果ガスの割合

・そもそも化石燃料とは

・人為起源炭素収支

・大気の果たす役割と温室効果ガスの影響

・近年の風水害の激甚化

・ウクライナ情勢や発電燃料の高騰の影響

・原子力発電、水力発電、風力発電、太陽光発電

これらのひとつひとつを場面場面で、ある程度定量的にわかりやすく説明できることが我々コンサルタントには必要ではないでしょうか。

 

3)国の政策、目標

   202010月に当時の菅総理が、2050年までにカーボンニュートラルを達成させるという目標を国民と世界に向けて発出しました。カーボンニュートラルを日本の成長戦略に盛り込むというものです。

全世界で328億トンの二酸化炭素排出量のうち日本の排出量は、11.4億トンで3.4%ですが、カーボンニュートラルを通した日本の技術の貢献が期待されています。1973年の石油ショック以降、規制と支援策により、日本はエネルギー消費効率の面で世界最高水準を達成しています。今後も政府主導でカーボンニュートラルは強力に進められていく事と思います。

 

(4)ビジネスの動き Scope 3

 カーボンニュートラルは、自社とは関係ないところの話ときめこんでいる事業者は、まだ数多くいると思います。しかし、サプライチェーン排出量を大手企業が重視してきたことで他人事ではなくなってきています。大手企業は、カーボンニュートラルへの取り組みを投資家に説明しなければなりません。自社での直接排出量をScope1、他社供給の電力等をScope2、事業者の活動に関連する他社の排出をScope3と区分して集計してそれらの全ての削減が求められます。

   Apple社は、2030年までにサプライチェーンの100%カーボンニュートラル達成を約束しています。国内の大手企業も購入先にカーボンニュートラルへの削減目標を策定させると宣言しています。カーボンニュートラルという大義をかざして中小事業者の負担になるような事は避けていただきたいです。我々は、求められたら、支援先企業のカーボン排出量計算は、できるようにしておく必要があります。

 

(5)最近の新聞情報

 新聞を見ていますとカーボンニュートラルに向けて国、企業、大学等の取り組みが毎日、どこかのページに掲載されています。どの記事にも夢があります。

・飛行機の燃費、生物が突破口

・再エネ拡大へ送電網強化

・政府水素価格3分の1に

・水素の利用が見込まれる主な技術

・鉄原料の製造、脱炭素で

 

                            以上  



中村天風について  投稿者:佐々木孔基  投稿日:2023年5月28日

コロナ禍の中で家にこもる機会が多くなったため、この機を利用して中村天風について読んだ。多くの著名人が愛読しており、特に今大リーグで活躍中の大谷翔平も読んでいたと聞いたのがきっかけであった。

天風は1876年大蔵省紙幣寮抄紙局初代局長の息子として東京都北区王子で生まれた。その後、福岡市の親戚の家に預けられ、修猷館しゅうゆうかん中学に入学した。幼少期より英国人に語学を習い、修猷館ではすべて英語で講義を受けていたため語学には堪能であった。柔道部のエースとして活躍していたが、練習試合に惨敗した熊本済々黌せいせいこう生に闇討ちされ、その復讐を行う過程で出刃包丁を抜いて飛びかかってきた生徒を刺殺してしまう。このため正当防衛は認められたものの、修猷館を退学となる。その後、16歳の時に玄洋社の頭山満(とうやまみつる)のもとに預けられる。ここで頭角を現し、気性の荒さから「玄洋社の豹」と恐れられた。この年頭山満の紹介で帝国陸軍の軍事探偵(諜報員)となり満州へ赴き、大連から遼東半島に潜入し錦州城、九連城の偵察を行った。

日露戦争が迫った26歳の時には再度満州に潜入し、松花江しょうかこうの鉄橋を爆破したり、仕込杖で青竜刀を持った馬賊と斬り合いを演じるなどの活躍を見せ「人斬り天風」と呼ばれたという。その後天風は様々な危険を乗り越え、無事目的地の大連に到着した。当時日露戦争に備えて参謀本部が放った軍事探偵は合わせて113名いたが、そのうち生きて大連に到着したのはわずか9名であったと言われている。

戦後は帝国陸軍で高等通訳官を務めていた。30歳の時に奔馬性(ほんばせい結核の症例の中で、急速に症状が進むもの)の肺結核を発病し、北里柴三郎などの治療を受けたものの病状は思わしくなかった。病気のために弱くなった心を強くする方法を求めて、海外の有識者からの知恵に期待し海外へ渡る決意をした。33歳からアメリカ、欧州の数多くの著名人を訪ねるもいずれも納得の行く結核に関する答えを得ることができなかった。35歳の時に失意のうちに帰国の途ついた。この渡航は当時結核患者には許可が下りなかったため、親交のあった孫文の力を借り親類に成りすましたて密航したと言われている。

帰国の途中経由地であったアレキサンドリアでインドのヨーガの聖人であるカリアッパ師と邂逅し、そのまま弟子入りし、ダージリンからヒマラヤ第3の高峰カンチェンジュンガ山麓

 にあるゴーク村で2年半修行を行った。

カンチェンジュンガ
カンチェンジュンガ

この修行を通じて結核は治癒し、さらに悟りを得るに至った。

帰国後は時事新報の記者を務め、実業界に転身すると東京実業貯蔵銀行(旧三菱銀行の源流)の頭取などを歴任、大日本製粉(現日清製粉)の重役など数々の会社経営に参画し、成功を収めた。実業界で財を成したものの、戦後恐慌に晒され困窮する人々を目の当たりにした天風は「今こそ自身の体験を広めていくべきときだ」と感じ、頭山に相談した上で一週間の間に職を辞した。その直後の43歳の時に「統一哲医学会」を創設し街頭にて心身統一法を説き始めた。

中村天風が創始した「天風会」は東京を本部として日本各地、ハワイなどの海外にもある。そこでは天風の「心身統一法」などを学ぶ講習会・セミナー、身体運動を伴った呼吸法・体操法・坐禅法を学ぶ行修会などを開催している。内容は多岐にわたるためここではその軸となる心身統一法と代表的な著書のみ紹介する。

 <心身統一法>

  心と体を積極化することで人間が本来持っている「潜在勢

  」を引き出し、幸福で充実した人生を作り上げる

<天風の代表的な著書5冊>

  『運命を拓く』
  体験的真理を基に、かつての真理瞑想で語られた真理の

 数々をまとめている

② 『図説・中村天風』
   人物がどんな人だったのか、人間天風の実像を知りたい人

  向け

③ 『真人生の探究』
    天風の考え方はこの本の中にすべて埋め尽くされている

④ 『いのちを活きる』
   第4代会長の杉山が書いた本真人生の探究を現代語で

   分かりやすく解説した本
   この本を読むと真人生の探求の内容に合点がいく

⑤ 『研心抄』
   天風哲学が理解できたところで、レベルアップを目指す

<中村天風の思想や活動に影響を受けた人々>

  東郷平八郎、原敬、宇野千代、双葉山、広岡達朗、

    松岡修造、大谷翔平

  実業界では松下幸之助、稲盛和夫など多数

中村天風
中村天風


              「地政学と地経学」  投稿者:田中 敏明  投稿日:2023年5月6日

今年になりコロナ感染の収束のきざしが見えてきたのは喜ばしいことであるが、昨年のロシアのウクライナ侵攻により国際情勢が不安定となり、物価高騰、サプライチェーンが混乱している。一つの事象が世界中に影響がでる事はグローバル化が、進んできた結果かと思う。予測のできないことが起こる時代になってきたが、日本は海に囲まれており、他国の脅威があるにもかかわらず危機感が薄かった。ようやく危機意識が芽生えてきたように思う。最近よく聞く言葉として地政学という言葉を聞くようになった。

地政学とは地理的な条件に注目して軍事や外交といった国家戦略、また国同士の関係などを分析、考察する学問である。

地政学上のハートランドとリムランド

環境の厳しいハートランド(ユーラシア大陸の中心部)に属する国は、豊かなリムランド(ハートランドの周縁)の国に進出しようとするため、「リムランド」は「ハートランド」と衝突しやすく、地政学的には「リムランド」は国際紛争の起こりやすい地域とされている

地政学上のシーパワーとランドパワー

シーパワーとは国境線の多くが海に接している海洋国家あるいは海洋国家が持つ力のことを言う。アメリカや日本、イギリス等、周りを海に囲まれているため、他国から攻められにくく、交易によって利益を得ようとする傾向が強い。

一方、ランドパワーは陸続きで他国と接している大陸国家あるいは大陸国家が持つ力で中国やシア、ドイツ等がそれにあたる。他国から侵略されやすく他国を侵略しやすいのが特徴である。

一方、ランドパワーは陸続きで他国と接している大陸国家あるいは大陸国家が持つ力で中国やシア、ドイツ等がそれにあたる。他国から侵略されやすく他国を侵略しやすいのが特徴である。

「シーパワー」と「ランドパワー」の国は対立しやすく典型的な例では冷戦時代のアメリカとソ連などが挙げられる。また一つの国で「シーパワー」と「ランドパワー」は両立しないのが地政学上の定説となっている。

 地政学をうまく表現している言葉として「敵の敵は味方? や遠交近攻」と言った「ことわざ」があるが、歴史的に見ると如何に戦争をせずに自分の国を守ることに知恵を絞っている事が良くわかる。これは国と国だけでなく企業の戦略構築にも良く使用される。市場が大きく、競争が激しい市場は一般的に利益が薄く、世の中の優良企業は、あえて競争しない戦略をとり、高利益率を得ている事が多い。

コロナ禍のサプライチェーンの混乱

コロナ禍でサプライチェーンの混乱が起こったがアメリカで、もの不足で物価高騰が起こった。

これは中国のゼロコロナ政策だけでなく下記のような要因も複雑にからみあっている。

1)コンテナ、船の不足による運賃の上昇

2)アメリカではトラックの運転手の不足

またアメリカがインフレ抑制の為に高金利政策をとるが日本は低金利の為、円安へ加速し円安の為、物価高騰(電気代、ガソリン、商品等)となった。

このように一つの現象が波及するのが、極めて速いのが、グローバル化だということに皆が気が付き始めた様に思う。

地経学という言葉

最近では地政学的な目的のために経済を手段として活用する学問として地経学という言葉が注目されている。今までは経済合理性で資本が動いていたがこれからは、安定したサプライチェーンで安定した経済を目指す為には、より国家の親密度に応じて資本が動く時代になってきたと思われる。地政学観点で製造業も再構築が図られると思われる。

地政学に興味を持つことはこれからの日本人にとって必要不可欠になると思う。



「Chat GPT、WBC優勝などに感じること」    投稿者:辻阪京子 投稿日:2023年3月24日

「ホームページにプログの原稿をお願いします」と依頼があり、はてさ何を書こうかと思いを巡らせていて、40代の頃に新聞に週1回のコラムを書いていたことを思い出した。 そう言えば、それがきっかけになり補助金申請の書類を作成することになったんだっけ。そんなことをつらつら考えながら、今は迂闊に自分の意見をネットにアップすると勝手に転載されたり炎上したりと色々な面を熟考して記載しないといけない、世知辛い社会になってしまったものだ。 そんな中でコラムに書く内容にも注意しなければと思っていると書く内容に困ってしまった。 今、話題に上がっているChat GPTに書かしてみたらどうなるんだろうと考えみたが、コラムなどと言うものは書く目的がはっきりしないので、依頼の仕方が難しい。かなり以前から、AIの精度が上がってくると人間の力を必要としない仕事が増えてくると言われてきたが、Chat GPTはルーチンワークの定型書類のみならずクリエイティブな作品までを作り出すと言う。

 今は未だ精度は上がっていないが、今後どんどん色々なものを学習して行くと精度が上がって行くのだろう。でも果たして人を感動させられる作品を作り出せるのだろうか、などと考えているとWBCで日本が野球の本場であるアメリカを下して優勝した。最後の瞬間はまるで甲子園の優勝と見紛うような、野球小僧の集団と化していたのが印象的で思わず笑みがこぼれてきた。試合の内容も含めて様々なドラマがあり、またそれ以前に各選手の子供の頃からの夢の実現に向けた、漫画に描いたとしてもあまりにも出来過ぎなストーリーが、多くの人に感動を与えた事だろう。そしてまた次の世代の野球小僧たちに新たな大きな夢を描かせる事だろう。



                                              「スロースリップ  投稿者:和田敏之 投稿日:2022年12月28日

(1)はじめに

   スロースリップという言葉をご存知だろうか? 2021年末にT B S系で放映された「日本沈没」の中で、香川照之演じる地震学者が、スロースリップの観測から関東の沈没を予見する。見られた方には、このドラマの前半で、キーワードとなっていたスロースリップという言葉は記憶に新しいのではないかと思う。私はこの言葉をドラマで初めて知り、調べてみたので本稿で紹介する。

 

(2)動く大陸

 今から100年ほど前ドイツのアルフレッド・ヴェゲナーは地層や化石の観察から、今日存在する全ての大陸は、もとは1つの巨大大陸「バンゲア」1であり、2億年前に分裂して別々に漂流して、今ある状態に至ったという大陸移動説を発表した。しかし当時としては、あまりにも常識から外れた説だったため、彼が生きている間には世間から認められることはなかった。その後、地磁気の観測や海底探査技術の発達により、大陸が移動したと考えなければ説明できない事象が多く観測された。それ故1960年代以降、大陸移動説が息を吹き返し、これを発展させて地殻変動を説明できる理論としてプレートテクトニクス理論が生まれた。

 

この理論によれば、地球は100km程度の厚みの、10数枚の岩盤(プレート)に覆われており、このプレートはその下にある対流するマントルにより少しずつ移動している。例えば、日本は図1に示すように4つプレートの境界に位置しており、フィリピン海プレート、太平洋プレート(海側プレート)がちょうど日本列島の近傍でユーラシアプレート、北米プレート(陸側プレート)に沈み込んでいる。ちなみにフィリピン海プレートがユーラシアプレートに沈み込む場所の地形を南海トラフといい、2.25.8cm/年の移動が観測されている。また太平洋プレートが北米プレートに沈み込んでいる場所の地形は日本海溝とよばれ13.522.5cm/年の移動が観測されている。(図1

図1 日本周辺のプレート
図1 日本周辺のプレート

(3)海溝型地震

  この海側のプレートが大陸側のプレートに沈み込むと、大陸のプレートはひきずりこまれ、歪みが生じる。この歪みが限界に達すると大陸側のプレートが跳ね上がり地震がおこる。これを海溝型地震とよび、例えば2011年におこった東日本大震災はこの海溝型地震である(図2)

図2 海溝型地震の発生メカニズム

(4)スロースリップの発見とスロー地震学

 1995年に発生した阪神淡路大震災を契機として日本全国を精密に測定できる地震観測網の整備が国土交通省により進められた。そんな中、普通の地震によるプレートの滑りよりも遥かに遅い速度で発生する滑り現象が発生していることが明らかになってきた。この滑り現象をスロースリップと呼ぶ。特に注目され出したのは、東日本大震災の約1ヶ月前に、このスロースリップが東北沖で断続的に発生していたことが、震災後に海底に設置した地震計を分析して判明してからである。それ以降、スロースリップの発生メカニズムや海溝型大地震の発生との因果関係に研究のエネルギーが注ぎ込まれてきた。その結果プレート同志の固着状況や場所により種々のモードのスロースリップが発生していること、またその発生メカニズム等が明らかになりつつある。

 最近では、これらの知見を数値モデル化して、巨大地震をスパコンでシミュレーションする取り組みもされている。

 また政府により、防災網の整備のため、このスロースリップ等を含む、プレート付近の挙動をリアルタイムで測定するための観測網の整備2が進められている。

 こうした分野は、上述のようにシミュレーション技術の進歩や日本近海のプレート観測網の整備に支えられ、東日本大震災以降、多くの知見が蓄積されてきており、スロー地震学3として日本が世界をリードして発展させている。

(5)まとめ

これからの10−30年の間に、南海トラフの巨大地震が発生することが確実視されている。被害地域が京阪神、東海地域等、日本の産業クラスタが集中する場所が想定されており、発生した時の被害想定額が約1400兆円(国家予算の十数年分)4とも試算されている。このような巨大地震への防災・減災の的確な政策を立てるためにも、地震に対する知見を深めることは、我が国にとって喫緊の課題であり、今後のさらなる成果が望まれる。

参考にした資料等

1.大陸と海洋の起源:アルフレッド・ヴェゲナー著

2.海底地震津波観測網:防災科学技術研究所 HP

3. SLOW EARTHQUAKES 令和2年:科学研究費助成事業

4.南海トラフ巨大地震による経済的被害推計:土木学会



    「EV最新事情  投稿者:坂井公一 投稿日:2022年11月28日

(1)   内燃機関からEVへの流れ

1908年にフォードから始まった自動車の大量生産はエンジンの効率改善、排気ガス対策を繰り返しながら、主に米国、欧州および日本がその技術を蓄積し、素材や工作機械、組み立て技術など幅広い産業にビジネス機会を提供した。しかし、100年を掛けて築いた「すり合わせ技術」は新規参入への障壁となり、内燃機関から排出されるCO2は地球全体の排出量の4分の1を占めている。欧州のCAFE(企業別平均燃費基準)規制ではガソリン1L当り全車種平均で25.4km以上の燃費が必要であり、更に厳しい基準が計画されているので、内燃機関だけでの対応は困難である。

原理的にはCO2を出さないEVFCV(燃料電池車)は温暖化対策と同時に新興国に参入の機会を提供する。また直近では石油において、ロシアや中近東による地政学リスク回避ともなる。特に地球温暖化対策は待ったなしであり、パリ協定に基づき、EU2035年にハイブリッド車を含む内燃機関の新車販売を全面禁止とし、米国カリフォルニア州も続く。先進国は法規制とEV購入や充電設備への補助金の両輪でEV化を推進している。

 

(2)   EV化のチャンスとリスク

2021年の世界のEV販売実績は660万台であり、複雑なエンジンの呪縛から解き放たれたEVにはすでにテスラ、BYD、上海汽車集団などが販売実績を伸ばし、さらに鴻海、百度、小米の台中勢やインテル、アップル、ソニーなどのIT系も参入を狙っている。ベトナムのビングループは2022年末に北米、欧州に初輸出するなど、新興国もEV生産のチャンスを伺っている。部材では中国CATLや韓国LGエネルギーなどがリチウムイオン電池に巨額の投資をしている。

 

一方で、電池の主要部材であるコバルト、ニッケル、リチウムは児童労働などSDGsに反する現場を産み、また石油以上に原材料が偏在し、新たな地政学リスクと資源枯渇のリスクをはらむ。

EVはエンジン車の3分の1の部品数だが、現在はリチウムイオン電池のコストが高く、補助金なしではガソリン車より価格は高くなる。また少ない部品数は、雇用の縮小とパワートレイン(駆動系)に関わる多くの中小企業の衰退を招く。

国内で自動車製造に関わる雇用者は104万人であり、内31万人

パワートレインに従事している。(経済産業省「工業統計調査(2020年確報)」)

自動車王国ドイツでもダイムラーやフォルクスワーゲンなどのEVシフトにより21.5万人が仕事を失うとされている。

 

    (上写真:テスラは世界で年間200万台体制を構築した)

  EVは走るスマホになる」と言い放つ人もいるが、時価総額が100兆円を超えるテスラは販売店を持たず、OTAOver The Air)によるメンテナンスは確かにスマホの技術を使い、2022Q3の純利益率は15.3%に達し、部品不足で生産出荷に窮する既存のメーカを凌駕する。

 

(3)   岐路に立つ日本の自動車産業

石油も鉄鉱石も産出しない日本メーカの自動車生産数は海外生産含めて世界の3割を占め、輸出金額の2割を稼ぎ、多くの中小企業を支え、関連ビジネスを含めて国内雇用の8%を守っている。

半導体不足やコロナ規制によるサプライチェーンの混乱は高い生産性をもたらしたジャストインタイムの根底を揺さぶり、CO2排出量はLCA(ライフサイクルアセスメント)で評価され、EUの国境炭素税の関門が待っている。国内で部材生産と加工に電気エネルギーを使うと、化石燃料中心で発電する高いCO2値(1kWh当り500g以上)で競争力が損なわれ、あるいは市場で排除される。

      25年の技術を凝縮したHEV(ハイブリッド)はその技術を持た

   ない陣営にPHEV(プラグインハイブリッド)含めて拒否され

  いる。スキー競技や柔道で経験した日本に不利な

   ルール 変更と同じ構図が読み取れる。

(上写真:累計販売2000万台超えたトヨタのHEV)

 

EVは宅配や近場の交通、循環バスに強みを発揮し、中長距離はHEVが適することは証明されている。発電だけの小型エンジンを搭載し、主動力はモータとするシリーズハイブリッド方式が量産されており、PHEVでは電池残量が一定値に下がるまでは電池優先で走り、残量不足になってからエンジン駆動する制御方式も有り、EV以外の選択肢を残すことは大切に思える。

先進国がEVのみ新車販売許可する規制は合理性を欠き、消費者負担を増大し、安定した商用電力が得られない新興国での普及に無理がある。

 

 一律の規制ではなく、PHEVFCV含む各国の事情に合わせた自動車販売があって良いはずである

更に本年11月に欧州委員会は窒素酸化物やタイヤの摩耗や飛散する粒子物質も規制する新たな排ガス規制「ユーロ7」を提案し、乗用車は2025年、バス・トラックは2027年から適用される見通しだ。EVについても電池の耐久性に基準を導入する。

 

何よりもEVが自動車産業の大きな雇用を奪う上に、新規の規制導入は全車種の設計変更や膨大なテスト作業を要求し、自動車価格の上昇を招き、得策には見えない。自動車産業が幅広く大きな雇用を生み、多くの関連企業を育て、しかも成長性が高いだけに、公平で合理性ある産業政策が望まれる。



        「最近のISOについて」  投稿者:半埜賢治  投稿日:2022年10月10日

 

(1)はじめに

 ISO(国際標準化機構)1947年に設立された非営利法人で、国際規格を策定しており、現在ではISO1~90005まで定められています。

一方、電気・電子工学関連技術はIEC(国際電気標準会議)が定めており、ソフトウェアなどはISOと共同で開発しており、ISO/IEC TR90003と表記されています。

 

(2)日本での導入

日本では1987年にISO9000s(9001.9002.9003)が策定され、当初は導入に消極的だった企業も多くありましたが、ヨーロッパに製品を輸出している企業に対し海外からの認証要求が高まり、1992年頃から導入する企業が増加しました。

1993年には()日本品質審査認定協会(JAB)が設立され、認定機関(JAB)に認定された認証機関が誕生することになり、その後JABは日本適合性認定協会と名称変更されています。

(3)代表的なISO規格

QMS(品質マネジメントシステム:9001)の認証取得企業が最も多いですが、EMS(環境マネジメントシステム:14001)ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム:27001)も多くの企業で導入されています。

昨年、全ての食品等の事業者がHACCP(危害分析重要管理点継続監視システム)に取組むことが法律で義務付けられたこともあり、FSMS(食品安全マネジメントシステム:22000(QMSHACCPを組合せたシステム)導入企業は増加傾向です。

現在では、JIS Q 9001(ISO9001)JIS Q 14001(ISO14001)となっており、日本工業規格はISOと同じ内容となっています。

 

(4)認証機関数と認証取得企業数

 JABが認証機関を認定し、認証機関が企業を認証するという構図ですが、IAFによる相互認証制度があるため、現在、国内で認証機関は

JAB認定・・・39機関

JAB非認定・・22機関

となっています。

JABに認定されなくても、海外認定機関による認定で認証活動が可能ですので、海外認証機関の日本法人などはJAB非認定の機関が多くあります。

 QMS認証を取得している企業数は、2006年をピークに減少し、EMS2008年頃から横ばい或いは減少しています。

 

これは、2000年頃建設業界に「ISOが公共工事入札条件になる」との話が広がり、その後それが噂であったことが明らかになったことに加え、景気減速や2015年のQMS大幅改正並びにTOYOTAのように独自システム構築でISO不要となる企業が出てきたことが原因と言われています。

(5)ISO認証今後の趨勢

QMS23万社、EMS11.5万社で推移しており、現在は落ち着いてきており、今後大幅な減少は無さそうです。

ISMS:コロナによるテレワークなど、ニーズが増加していますので、数年でEMSと同程度の企業数になりそうです。

FSMSHACCP法律施行の増加要因がありますが、コロナによる業界先行き不透明要因もあり、見通しにくい状況です。

(6)まとめ

日本に導入されて30数年、一時のブームは過ぎ去りましたが、各社がISOをマネジメント力向上に有効活用される事を祈念しています。



光触媒について」 投稿者:山口 誠 投稿日:2022年9月5日

 

(1)  はじめに

 東海道・山陽新幹線ののぞみ号の光触媒式空気清浄機、近鉄電車・バスの抗菌処理表示、パナホームの一戸建て住宅の光触媒防汚処理壁面、日光東照宮の漆の抗カビ処理プロジェクトなど、世界に誇る日本発のクリーン技術として光触媒は、あちこちで、定着してきました。

 今から55年前に東大の本多・藤嶋研究室で、酸化チタンに水の中で光を当てると、水が分解されて酸素ガスが発生することを発見されたのが、光触媒研究の開始点でした。

 

(2)  光触媒の2大性質と6大機能

 酸化チタンという物質に光を当てると起こるのが光触媒反応ですが、この光触媒には、強い酸化分解力と超親水性という2つの特別な性質があります。

 強い酸化分解力とは、水を分解して酸素を発生させたり、どんな有機物もCO2まで分解させたりする力です。

 超親水性とは、水になじみやすくなって、水が表面に均一に存在することです。水を弾く撥水性(はっすいせい)と正反対の性質です。

 

 この2つの性質をうまく組み合わせて6つの有用な機能(①抗菌・抗ウイルス、②防汚、③防曇、④脱臭、⑤大気浄化、⑥水浄化)が生まれ商品化が進んでいます。

図1.抗カビ効果を活用 日光東照宮陽明門修理
図1.抗カビ効果を活用 日光東照宮陽明門修理

(3)  現在の研究例

 光触媒は、相手が大量の物を瞬間的に無くしてしまいたいといった化学反応には、不向きです。

 

 研究開発の一つの方向性として、微量でも我々が手を焼いているもの、困っている物質を相手にしています。ニオイ、除菌・抗菌、鮮度対策といった分野です。例えば、佐賀で朝に収穫されたイチゴをその新鮮さを保ったまま京阪神に移送する際には、JALカーゴと呼ばれる光触媒コンテナが使われています。

図2.光触媒コンテナ JALカーゴ
図2.光触媒コンテナ JALカーゴ

横浜の三菱ケミカルの研究所では、光触媒で水を分解することで発生した水素と大気中のCO2を反応させて、プラスチックや化学繊維の原料をつくる研究が進められています。人工光合成実験と呼ばれています。

図3.人工光合成実験 イメージ図
図3.人工光合成実験 イメージ図


ATACには光触媒やISOに関する専門家が在籍します。

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