社長業はドラマチック“169人の母親業

 

    この頃父が後継者について悩んでいたらしく、当時のATAC、MATEのメンバーがよってたかって私を社長に推薦したことからです。本日ご参加の中には心当たりのある方もいらっしゃると思います。当時のやわ、やわな新米社長をサポートいただき、ご関係の皆様にはとても感謝しております。絶対無理、無理と思っていた私の社長業も15年目に突入しました。社長と言うより、白光のお母ちゃんです。最近は「お父ちゃんに近づいているよ」と周りの評価もあります。生んだ覚えもないのですが169人の子供を私は持つことになりました。そして皆とても良い子です。

   ここで少し私の自己紹介をさせていただきます。6歳頃から音楽に熱中してきました。学生時代は本気でオペラ歌手になりたいと思っていました。何でそれが社長になったのか。と聞かれたら、それは運命かなと思っています。同じ運命なら徹底的に楽しもうと思っています。役員会で決定されたものの「次期社長は貴方です」と言われて「誰のこと?無理!無理!」と叫んだのを覚えています。私は音楽のことしか知らないし、社内では海外営業しか知らないのです。父のようにエンジニアでもなく、専門分野の勉強をしたわけでもなく父をはじめ役員の人たちは何を言っているのだろうかと思いました。創業者の父は、大学も理科系専門分野、戦時中は呉の海軍工廠で船舶建造の金属部材の設計・製造のプロジェクトマネージャーもしていたようで言わば製造業のプロであり、マネジメントのプロでした。創業30年が経った頃に科学技術長官賞、黄綬褒章をいただき“白光”を50年掛けて大きく育ててきた人です。一方音楽しか知らない私です。一月考える期間はあったものの直ぐに受け入れられることではありませんでした。ただただ、とってもポジティブな私なんですが、以外にまじめな面もあって一月の思考期間、社長とは何か?社長になるとは?とこれまでの人生で最大限に脳みそを使い一生懸命考えました。

 

  社長業は音楽指揮者と同じ!

    流石にポジティブな私もバタバタとしていたその頃、ホスピタリティー世界一の評価を持つホテルチェーンの在大阪総支配人との出会いがありました。その教えられたことは“社長として白光をどうしたいのか決めること”そして“白光の進むべき所をイメージ”しビジョンを描き人財チョイスではなくセレクトし、そして自分の思い・ビジョンを社員に繰り返し伝え続ける。ととても大事な助言をいただき、この15年間これを守って来たつもりです。ビジョンは語り続けないと薄れます。チョット手を抜くと薄れて違う方向に行きかけます。

 

  “白光㈱”のビジョン-会社の質世界一を目指す

    現実は日々「ヒエッ!」とか「えっ何でやねん!」と言うことが毎日起きていてまだ、私が人前でお話出来る段階ではないと思います。

   会社を構成する社員一人一人の質を上げて行くというより難しいことに挑戦しています。質の定義は多々有りますが人の質を上げて行けば自然にホスピタリティレベルつまり、人を思いやる気持ちのレベルが自然に上がっていくものだと思っています。現在私は年間の半分近くを海外出張で費やしています。が一番大切で一番気にかかるのはやっぱり日本に居る169人です。

 

新人は挨拶をたたき込まれる“いらっしゃいませ”と“四つの言葉“

   例えばわが社の新人社員がたたき込まれることは挨拶の大切さです。 “いらっしゃいませ”と四つの言葉“おはよう”“ありがとう”“すみません”“お先に”社会人になって人として大事なこと(素直さと謙虚さ)をたたき込まれるのがわが社の教育です。

 

  いらっしゃいませ” 会社に来訪される総ての方への挨拶

 

    おはよう”           朝一番先に元気に挨拶をする

 

    ありがとう”          仕事は常に誰かに手伝ってもらって出来るのでその感謝を表す

 

    すみません”        人に何か頼む時、注意をされた時に言える

 

    お先に”            先に食事をする時、先に退社する時に言える

 

  余談ですが最近気になるのは、親も学校教育でも教えてないのか余りに知らなさすぎると思います。知らないことが強いと言えなくないが同時にとても恥ずかしいことになります。

 わが社のボーイズ&ガールズにそのようなことが起きないよう先輩社員はしっかり教え込んでいきます。もう一つの大事なこと“給与はどこから出ているか?”まさか銀行のATMからとは思っていないでしょうが。形のうえでは会社からですが会社からでもなく、社長からでもなくお客さまからお給料が出ているのです。お客様はお金を払ってまで白光の商品を買って下さいます。そのお客様が払って下さったお金が社員みんなのお給料になり、チョット多い目に購入し代金を払ってくれた年はチョット多い目にボーナスが出る。そして白光の将来をささえる新商品開発のための資金とか、新しい工場設備を充実させることも出来る訳です。会社にとって大事なものは業種が違っても答えは一つです。それはお客様です。お金を払って白光の商品を買って下さるお客様に先ず感謝する。そしてその気持ちをホスピタリティー一杯にお客様にお返しをする。「そうでないと罰があたるよ」とこの数年言い続けています。白光のホスピタリティーレベルが少しずつ上がって来ているかと思うその証拠に白光感動ストーリーが増えて来ています。このお母ちゃんすごい親ばかでして内の子(社員)のそのストーリーを一つご披露させていただきます。

 

 飛び切り無口なR&D担当者の一生懸命

    6年程前にあったR&D担当のエビソードです。彼はエンジニアの中でもとびきり無口ですが体内には溶岩が流れているのではないかと思わせる熱いものを秘めた人です。その頃フランス担当の営業マンが2年近く足繁くかよっていた会社があります。世界中に進出している超グローバル企業(宇宙事業、通信事業等)です。同社では300台のライバル社のはんだごてを導入しており、その中で営業担当の執念と努力によりやっと5台の注文を取り付けました。その営業担当は狂喜乱舞、即空輸納入しました。ところが一つの不具合が発生し担当者による数日間のやりとりでは不具合の症状を再現できず解決に至りません。そこで彼はパリ行きを提案しチーム一丸となってそれを応援し、パリ直行便のチケットを手に一人で現地に向かいました。数日の悪戦苦闘、彼の一生懸命さが客先の関係者も巻き込み彼らの助言等をもらいながら帰国前日ようやく解決出来たのです。納入先担当者とともにラインに搭載し終え退社時には、お客様がハグをしてこの君の労をねぎらってくれたそうです。そして同席の現地営業担当もこれを見て“ウルウル”したそうです。その後もライン責任者の信頼を得て白光社製はんだごての納入取引が続き、現在その工場では、はんだこて300台中200台弱が白光社製となっています。帰国後、彼はこの不具合解決に対して社内のバックアップ体制に朝礼で“ありがとう”の感謝を述べました。この事はお客様の“お困り”を解決しお客様に喜んでほしいという純粋な気持ちが通じて、その結果その後の数字に繋がったと思っております。

 

 白光にとつて一番の宣伝方法、それは“口コミ”

     わが社にとってとても強い味方が口コミです。これは良いも悪いも影響力のある宣伝方法です。だからこそ社員一人一人の質の向上が必要です。このような白光らしいストーリーが起きた時全社で情報共有する仕組みを作っています。お手本の会社の“WAOストーリー”~を見習い社員みんなで考えて命名した“白光すごいやんニュース”です。私は内心中々センスがいいと思っています。ニュースの内容は多岐に亘りますが多くはお客様に「ありがとう」を言っていただいた内容です。もう一例我が子(社員)自慢その②です。

 

  メンテナンスサービス担当者がもらった感謝状二ユース

    当社は5年前から無償のメンテナンスサービスを行っています。この事業とはユーザー様に購入時の性能で使い続けてほしいという思いと同時にこれはメーカーの使命でもあると言う思いで始めました。そのメンテナンスチームメンバーの一人、彼がいただいた感謝状を社員みんなでシェアしました。その中ではラインでの機器を選択するうえで最も重視すべき点はアフターフォローだと述べられています。この感謝状を機にとても良い関係が繋がっています。例えば新商品の開発時にご意見をいただいたり、試作品の試用時に評価をもらったりと大変ご協力をいただいています。感謝状をもらった当の彼は発表時には社内で“おめでとう”と会う人毎に言われそのたび“ありがとう”を恥ずかしそうに連発していました。当社が会社の質世界一を目指すに当たって“ありがとう”がたくさん行き交ってほしいという思いを、私はしつこく、しつこく語っています。お客様からの“ありがとう”は結果、数字に繋がります。社内で行き交う“ありがとう”は当社の社訓の一つ「誠意和合」に繋がります。これは当社創業当時から受け継がれている「社訓 ①日々前進 ②誠意和合 ③健康と安全」の一つです。現在、当社はこの「誠意和合」を基本に一人一人の質を高めて行こうとしています。私が繰り返し、繰り返し掲げたビジョンを言い続ける中で、社員によく質問をすることがあります。「人の質が高いとはどんな人やと思う?その定義は何?」と聞きますと、社員の答えの一番は「“素直さ”と“謙虚さ”かな」と返ってきた時は、内心かなりビジョンが浸透してきたかなと思います。そして白光のお母ちゃんである私が一番うれしい瞬間でもあります。

 

  工場の製品づくりに魂が入っています

    現在、社員169名が日本におり、生まれも性別も国籍等も様々です。代理店は世界60ヶ国にあり、それぞれの文化、言語、宗教、肌の色等みんな違います。国内2ヶ所(堺、上月)の工場内では60ヶ国の国旗をつり下げており、まるで運動会のようです。毎朝全員に今日の生産品の納入先や出荷国について説明しています。例えば今日のラインはインドに行くことやシリコンバレー・あの電気自動車の生産工場がわが社の“300W”をとても気に入ってくれて30台注文が入ったこと等ラインで働く社員に製品の行く先等情報を出来る限り共有しています。何にも知らせずに作るだけよりも、担当者には今の製品がフランス、ブラジル等々世界各国に納められることを伝えています。そうすれば自ずと良い製品づくりに対する思いも出てきます。加えて家庭で自社製品の自慢話もしてもらいたいのです。お客様を思うと思わないとでは製品に込められる思いが全く違い、魂が入ります。

   このように情報を共有することで良い品を作ろうという思いが込められると不良は減ります。当社が目指す“人”の定義はたった一つです。質の良い“ホモサピエンス=人”です。人には“強み”“弱み”が有り、その違いを社員がお互いに認め合い、素直にオープンに補い合って行く組織が理想です。

 

白光では社員誰もが持つ個々の強み、弱みを分かち合いお互いを高めて行きます

    当社では、あるアセスメントツールを使って個々の強みを知るチェックテストを実施しています。自分の強みを理解するだけではなく、一緒に働く仲間それぞれの強みを共有しています。お互い言い合いながらワイワイ、ガヤガヤと楽しんでいます。因みにこのテストによれば私は“ポジティブ”“未来志向”“社交性”“コミュニケーション”包含“ですが、強みが分かると同時に最も弱いところ・欠けているところも出てきます。それは”慎重さ“です。これには自分でも笑ってしまい社員もまた大笑いしました。私は他のところで頑張るから社員の慎重さが強みの人にカバーしてほしいと頼みました。当社では人の弱みは突くものではなく、出来る人が補うものだと考えています。その方が誰もが安心して気持ち良く仕事が進められます。これが社訓「誠意和合」を基本にしたわが社の目指す組織です。要するに組織はジグソーパズルのようで社員の強みを組み合わせてきれいな絵を描きます。1年生は小さな小さなピースの一つです。その小さなピースの一つが欠けたら白光と言うきれいな絵は完成しません。周りの人が居て初めて個の一ピースが活かされます。

当社は様々なことを学び、経験した人が集う会社です。例えば音大出身でピアノ専攻の人や、薬学卒業、物理学専攻でブラックホール研究、バッグパッカーのトルコ文化研究者、CD出すほどのアコーディオン奏者とか・・・面白いことを喜々として経験してきた人たち一人一人が質を高めて行けばお客さまのご要望を関知する度数も上がります。そして商品開発にも繋がるのです。“会社の質世界一”をビジョンに定めて毎朝社員一同斉唱しているのは、「白光の一人一人が質を高めお客様と感動を共感出来る会社になろう」 「いらっしゃいませ」と四つの言葉「おはよう、ありがとう、すみません、お先に」 そして社訓を毎日毎日言い続けながら人の質について語り続ける。自分の強みを磨いて弱い所は助け会うこれが白光㈱の人財育成の基本です。まさに人財の“ざい”は財産の財です。この思いを外しては質の良い人財は育たないと思います。最近よく聞くのが女性の活用についてです。女性が働き易い職場、女性のための制度等、わざわざ女性のための制度を躍起になって整えるのもどうかと思います。お互いの弱みをカバーし合って強みが出せる仕組みを考えて行けば良いと思っています。つまりが働きがいのある環境・制度であれば良いと思います。白光パースンが日々それぞれの強みを磨き合う会社を目指しています。それには

 

    白光のお母ちゃんが一番ちゃんとしてないといけないと自分に言い聞かせています。

   子供が親の背中を見て育つのと同じように社員は本当に常に厳しく社長の背中を見ています。結局会社の善し悪しは社長次第という重い結論に至っております。私、白光のお母ちゃんは質の良い背中を社員に見せて行くことをより一層心がけて行かねばと心新たに決意をしている次第です。白光は白光らしくこの方法で質の良い人財を育てて会社の世界一を目指します。

 

    最後にATAC25周年おめでとうございます。私には身に余るチャンスをいただき、ATAC、MATE(研)にとても思いが強かった父が一番喜んでおり、この会場のどこかで聞いていているのではないか思います。お陰様で親孝行ができました。ありがとうございます。また、私はOSTECが掲げる「人と科学の架け橋」と言う言葉が好きでこの“架け橋”のお陰で日本のものづくりもとても進化しているのだと思います。私達のような大阪の小さなメーカーが一生懸命頑張っていることも応援していただいているのだと思っております。

 

  本日ご参加の皆様には最後までご静聴いただき、本当に心より感謝申し上げます。

                                                                                                                                                                                                                    (山口まや 記)